喘息学習会

第18回 西淀病院喘息学習会報告

 2023/6/24、新型コロナ感染がやや落ち着き今回は13名の方が出席していただきました。今回が最後の講演になる森脇薬剤師が、48ページにわたる豊富な資料を作成し熱演しました。(詳細は内容紹介参照ください)。最後に参加者が一言ずつ感想や近況報告などで交流しました。

【講義の内容の紹介】

講義1 新型コロナウイルスへの世界中のパンデミック対策からわかってきたこと(大野医師)

 世界中で行われたパンデミック対策で喘息発作は半分くらいに、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪や肺炎も顕著に減少しました。換気やソーシャルディスタンスなどの効果です。これと同時に一般的な呼吸器系ウイルス(インフルエンザやRSウイルスなど)の感染減少も起こっており、これが大きく影響していました。新型コロナウイルスに限らずいろんなウイルス感染への対策は重要でこれからも続ける必要があります。また高齢者が新型コロナ肺炎にかかると命が助かっても行動範囲がすごく狭くなる人が多くなる結果も出ていることから、やはり感染予防、重症化予防のためのワクチン接種が大切です。

 

講義2 喘息は治るの?吸入ステロイドは続けても大丈夫?(大野医師)

  1. 小児喘息は自然治癒する人が多く見られますが、成人の喘息はよくなっても治療や生活上の注意などを続けることが必要な人がほとんどです。引き続き治療しましょう。
  2. 吸入ステロイドのおかげで喘息のコントロールは1990年代以降大変よくなりました。その副作用については、日本の保険適応内の吸入ステロイドの使用量では問題ないとされています。しかし、何年・何十年と長期間使用した場合の安全性についての研究データはほとんどありません。特に吸入ステロイド使用量が多く使われている(高用量と言います)場合は症状が安定していて呼吸機能などが維持できればできるだけ少ない量が良いとされています。減量は自分勝手にせずに主治医の先生と相談することが必須です。ちなみに高用量はキュバール・フルタイド・オルベスコで1日800μg、レルベア200μg、アドエア500μg1日2回、シムビコート1日8吸入です。

 

講義3 喘息の薬の話(森脇薬剤師)

 喘息治療の基本について吸入薬をメインにお話しました。

  1. 喘息治療の基本である薬物療法と日常管理
     日頃から増悪を起こさないように努めることが大切であり、吸入ステロイド薬をメインとした継続的な治療+日常管理(環境整備:ダニ、ホコリ、カビなど発作の誘因除去、生活管理:風邪予防・疲労をためないなど、精神的コントロール:ストレスコントロール)に努めることが大切です。
  2. 薬物療法について
  3.  吸入薬の種類と働きについて長期管理薬と増悪時の治療薬について解説しMART療法についてもお話しました。
  4. COPDと喘息について
     COPDの病態についての説明と、喘息・COPDが併存する病態がいずれの疾患からみても20~30%程度存在し、喫煙歴や持続的な労作時息切れ、呼吸機能低下などがあるとCOPDの病態が併存している可能性があることをお話し、COPD治療に用いられる長期管理薬や増悪時治療薬について説明しました。
  5. 吸入薬について(種類、吸入効率を上げる方法)
     吸入薬の薬効についてと吸入器をDPI(ドライパウダー)とミストタイプにわけて解説し、それぞれのディバイスに必要とされる吸気流速や特徴などを紹介しました。全ディバイスに共通する吸入時の呼吸の仕方について、吸入効率をあげる「ほー」吸入のメリットについて紹介しました。日本喘息学会の吸入動画を視聴予定でしたが機器トラブルのため動画の紹介にとどまりました。(動画はこちらから)吸入後の息止めをシミュレーションした論文を紹介し出来る範囲での息止めが有意義であること紹介しました。
     吸入薬の副作用と対策について、DPI製剤では吸入速度が遅いと嗄声(声がれ、しわがれ声)が起こりやすくなること、エアゾールタイプでは早すぎると嗄声が起こりやすくなる可能性があることを紹介し「ガラガラうがい」と「ぶくぶくうがい」を5秒ずつ3回繰り返していただくことで口腔や喉に付着する薬剤は90%程度除去でき、嗽ができない場合は口をすすぐ、食前吸入、エアロチャンバーの使用を紹介しました。吸入薬の保管・管理・お手入れ方法、残量計について解説しました。
  6. 吸入以外の薬剤
     テオフィリン徐放製剤、ロイコトリエン受容体拮抗薬、その他抗アレルギー薬と抗体製剤についておさらいしました。
  7. 増悪と増悪の危険因子について
     増悪とは正常時に比べて明らかに息切れ、咳嗽(せき)、喘鳴(ぜぇぜぇ)、胸痛などの呼吸器症状が増悪するとともに呼吸機能が低下し、治療の強化・変更が必要になる状態です。増悪の危険因子として大きく分けて①患者さんの個人としての要因と②環境要因があります。
     個人としての要因の中には①過去の病歴②現在のコントロール状態③治療薬の不適切な使用④併存症⑤運動ならびに過換気があげられます。そのなかで④併存症には鼻炎・副鼻腔炎、食物アレルギー、肥満、月経、妊娠、精神的問題、社会経済的問題、閉塞性睡眠時無呼吸、胃食道逆流症、COPDが危険因子としてあげられます。環境因子には喫煙、アレルゲン曝露、気象、大気汚染(屋外、屋内)、薬物(NSAIDs/痛み止め、β遮断薬/降圧剤や抗不整脈薬・眼圧を下げる点眼薬)、アルコール、ビタミンD低下、呼吸器感染症があげられます。今回はこの中で鼻炎とアレルゲン曝露による増悪を取り上げアレルギー性鼻炎について解説しました。
     アレルギー性鼻炎は、年間通じて症状がある通年性アレルギー性鼻炎(原因アレルゲンの大半は家塵ダニ。その他、真菌、ペットのふけ、昆虫など)と季節性アレルギー鼻炎(多くは花粉をアレルゲンとするため花粉症と呼ばれる)があります。小児では喘息患者さんの70%以上、成人の喘息患者さんでも60~70%に合併がみられます。アレルギー性鼻炎の治療として①原因アレルゲンの除去・回避、②薬物療法、③アレルゲン免疫療法があります。①、②は喘息治療の内服薬で解説した薬剤と同じ系統の内服薬と点眼、点鼻が多く使用されます。③アレルゲン免疫療法について抗原であるスギとダニ(適応はアレルギー性鼻炎のみ)に関する舌下免疫療法を紹介し、点鼻薬と点眼薬の使用方法のこつについて紹介しました。
    併存する疾患も並行して治療することで増悪なく過ごすことに繋がります。その際に抗アレルギー薬は重複に注意が必要です。
  8. 災害時に備える
     自然災害が喘息に与える影響には①医療システムの崩壊に伴う抗喘息薬の供給遮断②感染症の蔓延、寒冷曝露、大気汚染などの物理的ストレス③災害による精神的ストレスなどがあげられ、東日本大震災での福島県における調査では抗喘息薬(特に吸入ステロイド)の供給が途絶えた患者では増悪が有意に増加し、抗喘息薬を続けられた場合でも災害に対する不安の強い患者では有意に喘息の悪化が認められたことを紹介しました。
     ①の対策として、少なくとも1週間分の定期処方薬は余裕をもって確保しておくこと、お薬手帳や薬剤情報提供書を常に更新し、現在何を使っているのかを誰の目から見ても分かりやすい状態にしておくこと。
     ②に対してマスク、毛布などを避難に備えて持ち出し袋に準備しておくこと。
  9. 2022年下半期から今後の喘息、COPD関連の動きとして
     前回の学習会以降の動きを解説しました。2022.11に抗TSLP抗体テゼスパイアが発売、2023年末には前回の学習会で紹介されていた気管支サーモプラスティが製造終了予定、今後出るかもしれない薬剤として吸入抗TSLP抗体を、また前半の大野Drの講義にあったRSウイルスに対するワクチンも複数のメーカーからも発売予定のものがあります。

 

講義4 教養講座 認知症予防には家事・調理が有効ですよ!!!

 家事・調理をする人は、1日に必要な運動量が確保され記憶力や注意力が良くなるという報告が出ています。知的活動を鍛える8つのポイント(「とっとり方式認知症予防プログラム」より紹介)に照らして、家事がいかに認知症予防活動に適しているかを演者自身の体験も踏まえてお話しました。特に中高年の家事に関わらない男性の方に、その大切さをジェンダー平等の観点も入れてお話しました(食事準備は夫婦二人で取り組みましょう。)

次回は2024年6月頃の予定です。新型コロナ感染の蔓延状況や、地球沸騰化の時代に入った気候の状況などを見ながら決めたいと思います。また当院ホームページのお知らせ欄に予告を掲載します。皆さんも新型コロナ感染や気候変動には十分注意してお過ごしください。


<お問い合せ先>
西淀病院 医局宛て

〒555-0024 大阪市西淀川区野里3-5-22
電話:06-6472-1141 FAX:06-6474-7685


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