【 story1 】 小児 子どもの貧困の狭間で②
〈 目を覆いたい厳しい現実 〉
結局、4月にK君が18歳の誕生日を迎えてすぐ、
児童扶養手当の受給がなくなった母親が
彼の住民票を大阪に送ってきたため、
障害者自立支援の申請を行なうことができました。
その間も彼は必ず受診前に「お金が足りない」と
電話で打ち明け、診察後には持っているお金は必ず払って帰りました。
経済的格差を背景としたこどもの貧困が社会問題になっている昨今。
行政による医療費補助だけでは救いきれない現状があると
坂本看護師は言います。
「仕事が休めないお母さん、入院代が払えないご家庭など、
厳しい生活事情が垣間見られることはよくあります。
家にこどもを閉じ込めてSOSが出せないでいる人も多いと思います。」
休めば仕事をなくすギリギリのお母さんもいます。
何年か前には、近くの商店街をパタパタッと裸足で歩いていた子が
保護されてきたこともありました。
洗った服を着せてもらったことがないような子でした。
ある時には、受診時間ギリギリに来て
バタバタっとこどもを診察させて逃げるように帰っていくお母さん。
DVでシェルターから来たみたいでした。
たまに待合で「ひどいお母さんだなぁ」って思う人もいます。
「それでもまだ、ここに連れて来ている」と
自分たちを納得させることもあります。
大阪市のこどもの医療費は、
中学校3年生まで外来は月500円(上限月2回まで)です。
このわずか500円が命綱になることを想像させる事例は
今でもいくつかあります。
〈 格差を乗りこえるために 〉
今、K君は住み込み寮付きの職場で働いています。
のざと診療所は少し遠くなったため、
民医連の別の病院に通院しています。
看護師たちは、一番気にかけていた医師が、
紹介状に長い長い手紙を添えたのを見ました。
どんな思いだったかもよく知っています。
K君がこの診療所から同じ仲間の民医連の病院へ行って
元気に過ごせるよう看護師たちは心の中で
励まさずにはいられませんでした。
日常の業務がどんなに忙しくても、
厳しい格差と貧困の現実の中で関わった患者さんの手は
決して離さない。
そんな看護をどうすれば続けていけるのでしょうか。
常に問い続けます。
坂本看護師は
「私たちの仕事は、病気を治したい人たちに寄り添うことです。
お金がないから医療にかかれないなんてことが
あってはいけません。制度的な手助けも含めて
あらゆる方法で全力で患者さんを支えなければ
公平でないと思うのです。」
ローテーションの中で、どの科にいても
アンテナの感度を研ぎ澄ましています。
次回へつづく・・・・