臨床倫理の基本方針

臨床倫理の基本方針

1. 目的

 私たちが医療・保健・介護活動を行っていく上では、高い倫理的感覚を身につけ、常に倫理的課題に配慮し行動することが不可欠です。一般的に認められている倫理原則を理解するとともに、当院の機能・役割に見合った倫理的課題への対応の方針をすべての職員が理解するために、当院の臨床倫理の方針を策定します。

2. 方針

 すべての職員がこの方針を遵守します。

3. 適応範囲

 すべての職員。

4. 定義

 臨床倫理についての議論は医療の分野での歴史が長く、表現も患者・医療・医療者としていますが、保健・介護の分野でもこの方針に準拠します。

5. 役割と責任

 本方針の作成と改訂の役割と責任は倫理委員会にあります。

6. 遵守と監視

 すべての職員は本方針を参照して、自分自身の遵守状況をモニタリングします。各部署の管理者は本手順の遵守状況を監視してフィードバックします。

7. 手順

Ⅰ.臨床倫理の基本原則

 医療(保健・介護)に携わる職員が守るべき臨床倫理の原則として、以下のことが挙げられます。

1.個人の尊重

 自己判断能力のある人は、自分の意志で行動し、説明を受けることができ、他者の干渉や支配を受けるべきでありません(Autonomy)。医師はじめ医療従事者は、情報を開示し患者の冷静な判断を助けるとともに、患者の決定を尊重します。また、患者が自律的でない状態でも、思いやりと尊厳をもって対応します。

2.誠実で、隠さない

 旧来の医療倫理では、医療者が患者に対してありのままを話すことは要求されませんでした。今日では患者や家族の望み・心配事に共感しながら、患者に対して誠実で、隠さない態度であることが、医療者と患者との信頼を築きます。

3.守秘義務

 医療者が得た患者に関する情報を他人に漏らさないことは、プライバシーの尊重につながり、患者を情報が漏れることによって起こりうる被害から守り、安心して医療を受けることができます。しかし、守秘義務は絶対的なものではなく、第三者の被害を防ぐために守秘義務を守らない選択も必要になることがあります。

4.約束

 患者との約束は患者に期待をもたらします。約束を守ることにより医療者個人に対する信頼だけでなく専門職としての信頼を高めることにもなります。逆に自分の裁量を超えた安易な約束は慎むべきです。

5.患者の最善の利益

 患者は医学的専門知識を有しておらず、傷つきやすい状態であるため、医療者を頼りにして適切な助言を求め自分の福利を求めようと努めます。医療者は患者の利益のために積極的な行動を取ることが求められます。

6.医療の平等

 人々は価値のあるものを平等に受け取るべきで、医療においても患者は平等に治療されます。医療資源が限られている場合、その配分は患者の医療上の必要性ともたらされる恩恵の大きさによって決定します。

Ⅱ.代表的な臨床倫理問題への対応

1.有益な治療を拒否する患者への対応

 医師は治療によって生じる負担と利益を明確に提示します。その上で、判断能力のある患者が望まない治療を拒否できる権利は保障されています。医療者は、治療の副作用がわずかで恩恵はるかに大きい場合、説得をする責任があります。患者の状態が差し迫っていて説得の余地がない場合、医師の判断で治療を行うことは時としてありますが、患者の治療を拒否する自由を奪う可能性に留意すべきです。例外としては第三者に被害が及ぶ場合(感染症)があります。

2.判断能力が欠如している患者への対応

 判断能力が欠如している患者への対応は、アドバンス・ディレクティブ(事前指示)の確認、信頼できる代理人による意思決定と進めるのが一般的です。それでも決定しかねる場合、患者の最善の利益が何かを、医師個人ではなく医療チームとして検討する必要があります。

3.DNAR(=Do Not Attempt Resuscitation、蘇生を行わない)指示について

 「DNAR指示についてのガイドライン」を参照してください。

4.輸血拒否について

 「エホバの証人をはじめとする輸血拒否患者の対応手順」に基づいて対応します。

5.終末期医療

 「適切な意思決定支援に関する指針」を参照してください。

6.脳死と臓器移植

 当院では必要時の脳波測定が行える条件がなく、脳死判定は行ないません。したがって脳死による臓器移植を提供することはありません。ドナーカードを持った患者さんの逝去時は、手順にしたがって対応します。

7.患者への治療を拒否する場合

 医療者が診療にあたって自分自身の安全が脅かされる場合、患者の治療を拒否することがあります。患者への好感度の程度や患者のアドヒアランス不良を理由に診療を拒否することは許容されません。政治的・宗教的価値観によって治療を拒否することも、倫理的に反対されます。

 医療者と患者関係が難しい場合、治療関係を続けるための改善策をとっても合意が得られない場合、関係を打ち切る最終判断を行うこともあります。その際には、医療者は患者に対し前もって予告し、患者が他の医療機関を探す時間を取る必要があります。また、長期的な医療者と患者の関係から手を引いても、緊急治療が必要となった場合その患者を治療する義務があります。

8.学会、研究会などでの発表、報告に際しての倫理的な規定について

 「各種学会・研究会での発表についての報告規定」を参照してください。

9.倫理委員会へのコンサルト

 臨床の現場では、臨床倫理のジレンマに陥ることがよくあります。その解決は、上記原則を参考に、現場のスタッフ間で検討を行うべきです。解決の方向が見出しにくい場合、臨床倫理カンファレンスを活用し、それでも判断に迷う場合、最終的には倫理委員会に検討を依頼することができます。

西淀病院倫理委員会作成
2010年9月27日作成
2015年9月7日改訂
2020年9月3日改訂
2025年10月2日改訂

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